オランダツアー6日目の午後は最後の視察先である家庭医(General Practitioner)のリブ・ロスさんの診療所を訪問。
リブ・ロスさんは、今回現地での通訳兼ガイドを務めてくださった後藤猛氏の家庭医でもある。
診療所は目の前がすぐ運河で、普通の中層住宅の2階にあり、うっかりすると見落としてしまいそうな小さなネームプレートが付いているだけ。
イギリスと同じく、地域に根付いた医療制度が最も浸透しているここオランダでは、全国民が家庭医に登録する仕組みになっている。フリーアクセス制度をとる日本との大きな違いである。
内科医の開業医が多い日本と違い、家庭医は全医療を診る専門医なのである。家庭医は医科大学で3年間の家庭医療専門医研修を受け、その後インターンを経て独立する。それこそ日常的なケガから病気はすべて家庭医で診てもらい、検査や手術等が必要な場合は2次医療の病院の専門医を紹介される仕組みとなっている。家庭医では診断できない場合も専門医に紹介する。リブ・ロスさんは、薬で治療できるかどうかを判断するため、認知症の患者をメモリー クリニックに紹介したこともあるという。
家庭医には世帯単位で登録されることが多く、家庭医は家族構成や家族全員の健康状態を把握していて、家庭内の悩み事まで相談にのる、生活のコンシェルジュだともいえる。家庭医が受け持つ1次医療(プライマリ・ケア)が、医療問題の90%に対応していて、その医療費はわずか7%位だそうだ。
家庭医への登録料は年間100ユーロ、その他の医療費はすべて短期医療保険(ZWV)で賄われるという。
人間関係には相性の問題等もあるから、利用者は家庭医をいつでも替えられる。実際後藤氏もリブロスさんに出会うまでに何人も家庭医を替えたとのこと。
リブ・ロスさんは同僚と二人で診療所を営み、3名のアシスタントがいる。アシスタントの1人はMD(医師)の資格を持っている。診察室は病院というより事務所のような雰囲気。パソコンで情報を共有できるので、休暇中は同僚の医師が交代できる。彼は2000人程の登録患者を持ち、1日に25~30人を診療所で診察、自転車で2~3人の訪問診療に出る。診察の合間には電話相談にも応じ、その数は1日に10~15人位だという。この日も、訪問診療に出かけて帰ってきたところだった。電話相談は主にアシスタントの役割で、電話相談の8割がアシスタントで対応できるそうだ。その数は1日に200件程にものぼるとか。
安楽死の要望に判断を下し、実行するのが家庭医だということを








、午前中の視察先「安楽死協会」で学んだばかり。
リブ・ロスさんに、「安楽死を実行した経験はありますか?」と尋ねたところ、「はい、昨日と今日と2件ありました。」との返答に、その場が一瞬ざわめいた。安楽死が現実味を帯びて目の前に差し出された、そんな衝撃があった。
安楽死を扱うのは毎年2~3件だが、今月はたまたま3件もあったという。
一人は2年前に離婚し、その頃から受診していて鬱状態にあった患者、もう一人は咽頭癌を患い骨転移している患者だったそうだ。たまたま安楽死に使用したという薬が、彼の手元にあったので、それを見せていただいた。
その人の仕事や性格、家庭環境、ライフスタイル等を知っていて、本人の想いを十分理解できる家庭医。そんな家庭医と患者との信頼関係があるからこそ、安楽死が成立するのだ、そうあらためて感じさせられた。
日本では安楽死について議論する前に、家庭医(かかりつけ医)の育成が急務なのではないかしら?そんな考えが頭をよぎった。
余談ですが、リブ・ロス医師はとてもハンサムで素敵な方。少々お疲れのご様子でしたので、思わず声をかけてしまいました。こんな人がかかりつけ医だったら、いいですね~